奨学金の返還を、企業と地域で分け合う──代理返還制度と自治体の企業向け補助

国や行政の施策

企業が従業員の奨学金を、本人に代わって日本学生支援機構へ直接返す「代理返還」。2021年4月に始まったこのしくみは、令和8年3月末時点で全国4,852社が利用しています。あわせて、こうした企業の支援を自治体が補助する制度も各地に設けられています。熱海市・静岡県・小千谷市の制度から、奨学金の返還を企業と地域で分け合う設計を、一次情報から整理します。

代理返還とは──企業が日本学生支援機構へ直接送金するしくみ

日本学生支援機構(JASSO)は、この制度を「企業等が奨学金の返還残額の一部又は全額を、従業員に代わって日本学生支援機構に直接送金する制度」と説明しています。2021年4月から、企業等から機構へ直接送金できるようになりました。

利用は広がっており、JASSOによると「令和8年3月末時点で、全国で4,852社」が奨学金返還支援(代理返還)制度を利用しています。

JASSOは、代理返還を利用する場合の課税等の関係について、次のように説明しています。

  • 法人税:返還額が経費として認められる場合、損金に算入して課税対象所得を軽減できる可能性があること。一定の要件を満たす場合、「賃上げ促進税制」による税額控除の適用を受けられること。
  • 所得税:返還額に係る所得税は非課税となり得ること。
  • 社会保険料:返還金は原則として報酬に含めず、社会保険料を減らせる可能性があること。

企業の支援を、自治体が補助するしくみ

JASSOのサイトには、代理返還で従業員の返還を支援している企業に対し、「当該企業等が支援した一定額を補助する制度を設けている地方公共団体の情報」をまとめたページがあります。掲載されているのは、都道府県が12(令和8年9月1日更新)、市区町村が12(令和8年7月1日更新)です。

この一覧にあわせて、各自治体の公式ページからも、企業の返還支援を後押しする制度を確認できます。私たちが施策確認巡回で確認したもののうち、設計の異なる3つを紹介します。

3つの設計から見る、企業と地域の分け合い方

市が、企業の支援額の3分の2を補助する──熱海市

静岡県熱海市の「熱海市中小企業等奨学金返還支援補助金」は、従業員の奨学金返還を支援する、市内に事業所を有する中小企業等に、市が補助する制度です。目的は「中小企業等の人材確保を図るため」とされています。

  • 対象となる支援:奨学金の返還額に相当する額の全部または一部を、手当などで従業員に支給するか、従業員に代わって返還すること
  • 対象の従業員:補助を受けようとする年度の末日に35歳以下で、正規雇用され、市内の事業所に勤務していること
  • 補助率:3分の2以内(従業員1人あたり年度12万円、1事業者あたり年度60万円が上限)
  • 補助期間:支援を最初に受けた月から60月

企業が支援した額の3分の2を市が受け持ち、残りを企業が負担する分け方です。

県と市町が連携して、企業を支える──静岡県

静岡県の「県・市町・中小企業等と連携した奨学金返還支援制度(企業向け)」は、「35歳以下の方を新規に採用し、その奨学金返還支援を実施する企業を、静岡県と11市町が連携して支援」する制度です。手当等の支給や代理返還を行う中小企業(静岡県内に本店または主たる事務所を有し、申請先の市町内に事務所を有すること)に、補助金が支給されます。

  • 補助額:支援対象者1人あたり、企業が要した経費の3分の2以内。ただし、その年の返還額の3分の1以内で、8万円が限度
  • 連携市町:東部(伊東市、裾野市、伊豆市、長泉町)、中部(島田市、焼津市、藤枝市、牧之原市、吉田町)、西部(袋井市、菊川市)の11市町

県と市町と企業の三者で、若手の返還を支える組み立てになっています。

企業が「協力金」を出し、本人への補助に上乗せする──小千谷市

新潟県小千谷市の「おぢやごころ奨学金返還支援事業補助金」は、補助を受けるのは奨学金を返還している本人です。U・Iターンで就職した若者の移住と、すでに小千谷市に住んで働いている若者の定住の、両方を支援する制度とされています。

  • 対象者:市に住民登録があり、初回申請日に35歳未満で、申請日から10年以上定住する意思があり、正規雇用されている方
  • 補助率と年額の上限:市外事業所に勤務=2分の1(U・Iターン8万円/その他4万円)、市内事業所=3分の2(同12万円/6万円)、市内協力事業所=3分の3(同20万円/10万円)
  • 支援期間:最長10年、最大支援額200万円

「市内協力事業所」は、事前に登録して企業協力金を納める事業所です。協力金の上限は、従業員1人あたりU・Iターン8万円、その他4万円とされています。本人を支える市の補助に、企業の協力金が重なる分け方です。

「残ってもらう」施策に、企業も一緒にとりくむ

自治体が奨学金の返還を支援する制度の多くは、一定期間その地域に住み、働くことを条件にしています(詳しくは奨学金支援の条件は ーここで暮らすこと)。代理返還と、それを支える自治体の補助を並べて見ると、同じ「残ってもらう」施策に、もう一つの担い手として地元の企業が加わっている、と私たちは見ています。

私たちは、若い人がその地域に住み続けるかどうかは、住まいや暮らしとあわせて、「この職場で働き続けたいか」という気持ちに大きく左右されると考えています。企業が自ら従業員の返還を支えるしくみは、地域の制度であると同時に、職場から従業員に向けたメッセージにもなると私たちは考えています。自治体と企業がそれぞれの立場で同じ若い人を支えることで、定着の土台はより厚くなる、というのが私たちの見方です。

各地の奨学金返還支援の制度は、教育・奨学金返還支援の一覧に、公式発表から確認できたものを地域別にまとめています。

出所

コメント

タイトルとURLをコピーしました