移住支援金の「返還」はいつ発生するか──3年・5年・1年、3つの線引き

国や行政の施策

「移住支援金は、あとで返さなければならないことがある」——制度の説明でそう触れられてはいても、では具体的にいつ、いくらなのかは、案外わかりにくい部分があります。移住した本人にとっては生活設計に直結し、自治体の担当者にとっては要綱の書きぶりと債権の発生に直結する大切な部分です。複数の自治体の交付要綱を読み比べると、返還の骨格は全国でほぼ共通していることが分かります。その線引きを、一次情報から整理してみました。

返還が発生するのは、5つの場面

移住支援金(地方創生移住支援事業)の交付要綱は、返還を求める場面を具体的に列挙しています。金額の区分は「全額」と「半額」の2種類です。

全額の返還を求められる場合

  • 虚偽の申請等をした場合
  • 移住支援金の申請日から3年未満に、支援金を受給した市町村から転出した場合
  • 移住支援金の申請日から1年以内に、移住支援金の要件を満たす職を辞した場合
  • 起業支援金の交付決定を取り消された場合

半額の返還を求められる場合

  • 移住支援金の申請日から3年以上5年以内に、支援金を受給した市町村から転出した場合

ここで注意したいのは、起算点が「転入日」でも「交付日」でもなく「申請日」だという点です。転入してから申請までに数か月かかることは珍しくありませんから、思っている居住年数と、要綱上の年数はずれている可能性があります。

3年・5年・1年──3つの線が意味するもの

返還規定に出てくる年数は3つですが、それぞれ役割が違います。

5年は、そもそもの交付要件です。申請の段階で「申請日から5年以上、継続して移住先の市町村に居住する意思を有していること」が求められます。つまり移住支援金は、5年間住み続けることを約束して受け取るお金だという建て付けになっています。返還規定は、その約束に対応する裏側の条文です。

3年は、全額返還と半額返還を分ける線です。5年の約束を破ったとしても、3年以上住んだのであれば負担を半分にする、という段階的な設計になっています。

1年は、就業を要件として申請した人だけにかかる線です。地域の中小企業等への就業を理由に支援金を受け取りながら、1年以内にその職を辞めた場合は、居住を続けていても全額返還の対象になります。支援金が「移住」だけでなく「地域での就業」も目的にしているためです。

「やむを得ない事情」という安全弁がある(各自治体の一次情報から)

見落とされがちですが、要綱には例外規定が置かれています。たとえば本部町の要綱では、返還請求の条文にただし書きとして「雇用企業の倒産、災害、病気等のやむを得ない事情があるものとして町長が認めた場合はこの限りではない」と定められています。御所市の要綱もほぼ同じです。

つまり返還は、要件に当たれば自動的に発生するものではありません。首長の認定という裁量の余地が残されているのがこの制度の特徴です。勤務先が倒産した、災害で住み続けられなくなった、病気で離れざるを得なくなった——こうした事情は、返還を免れうる正当な理由として要綱に明記されています。

裏を返せば、自治体担当者にはこの認定を判断する仕事が発生します。どこまでを「やむを得ない」と認めるか。前例のない相談が来たときに何を基準にするか。要綱には書かれていない部分であり、運用の蓄積が重要になる部分です。

細部は、自治体の要綱ごとに分かれている

骨格が共通している一方で、条文の書きぶりには自治体差があります。実際に読み比べると、次のような違いが見つかります。

起算日の書き方

本部町・高知県・香取市はいずれも「申請日から」ですが、御所市の要綱は「支援金の申請日の翌日から起算して」となっています。1日の差ですが、転出の際には気を付けなければなりません。

5年側の上限の書き方

半額返還の範囲について、高知県・本部町・御所市・香取市は「3年以上5年以内」としています。一方、小山市は「3年以上5年未満」です。ちょうど5年目にあたる転出の扱いが、要綱によって分かれることになります。こちらも、「未満」と「以内」というわずかな差が、転出者にとっては大きな違いになります。

備えのために

自団体の要綱がどちらの書き方になっているか、一度確認しておくと安心です。国が示す骨格に沿って作られているため大枠は揃っていますが、起算日と上限の表記は横並びではありません。移住者から「いつまで住めばよいのか」と問われたときに答える根拠は、国の説明ページではなく自団体の要綱の条文です。

返還規定は「罰」ではなく、定着を求める設計そのもの

ここまで整理してきて見えてくるのは、返還規定が移住者を縛るために置かれているわけではない、ということです。移住支援金は、東京圏から地方への人の流れをつくるための投資です。3年・5年という年数は、投資が成果になるまでに必要な時間として設定されています。

だからこそ、返還が発生する事態は誰にとっても望ましくありません。移住者は受け取った支援金を返す負担を負い、自治体は移住実績を失ったうえに債権管理という余分な事務を抱えます。国から見れば、投じた交付金が人の定着につながらなかったことになります。

返還を防ぐ方法は、申請の審査を厳しくすることではありません。移住してきた人が3年、5年と住み続けられる状態をつくることだと考えます。仕事が続くか、住まいが確保できているか、地域に相談できる相手がいるか。移住者が定着しない理由は、多くの場合この3つのいずれかにあります。

要綱に書かれた3年・5年という数字は、自治体にとって「この期間、伴走します」という目標とも読めます。支援金を交付した時点は入口にすぎず、その先の数年をどう設計するかが、返還を生まない移住施策の分かれ目だと考えられます。

出所

返還条件は移住先の自治体の交付要綱によって定められています。本記事は複数自治体の要綱・公式ページから共通する枠組みを整理したものです。実際の適用については、移住先の市町村へお問い合わせください。

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