奨学金支援の条件は ーここで暮らすこと

国や行政の施策

奨学金の返還を自治体が代わりに支払う「奨学金返還支援制度」は、令和7年6月時点で全国876の市区町村が導入しています。多くの人は「学生への経済支援」として受け取りますが、要件を読むと、実はそこに「一定期間ここに住み、ここで働くこと」という条件が組み込まれています。内閣官房の一次データから、その内容を確認します。

全国876市区町村が導入、支援実績は年88億円規模に

内閣官房 地域未来戦略本部事務局の調査によると、令和7年6月1日時点で奨学金返還支援に取り組む地方公共団体は、47都道府県すべて(100%)と、876の市区町村(全国の市区町村の50.3%、前年度比+60団体)になります。

市区町村ごとの具体的な制度(対象年齢・助成額・定住の条件など)は、奨学金返還支援の自治体一覧の中に、各自治体の公式発表から確認できたものを地域別にまとめていますのでご覧ください。

支援実績も年々積み上がっています。年度ごとの支援実績額は、令和2年度13.5億円→令和3年度30.3億円→令和4年度60.8億円→令和5年度73.8億円→令和6年度88.0億円と、5年間で6倍以上に拡大しました。令和6年度の新規支援開始者は15,260人、継続分を含む支援者総数は33,720人。制度が始まった平成27年度からの累計支援者数は68,492人にのぼります。

条件を読むと、「8年」「6年」という定着期間が設定されている

この制度の目的を、内閣官房は「域内の企業への若者の就職を促進するものであることから、このような取組を若者の地方定着に有効な施策と位置付け」ていると説明しています。つまり当初の目的から、経済支援による移住、定着施策として設計されているということがわかります。

実際の要件を見ると、そのことがよく分かります。調査に掲載されている例では、鳥取県が「8年間継続して就業・居住」、宮城県が「6年以上の継続勤務」を条件としています。多くの団体で「35歳未満」といった年齢要件や、「域内に居住し、かつ域内で就業していること」という地域要件が併せて設けられ、返還支援の割合は「2分の1」「3分の1」「3分の2」など団体によって幅があります。

つまり奨学金返還支援は、申請した一時点だけではなく、8年、6年という長さの「ここに住み、ここで働き続けること」を、支援と引き換えの条件として、はじめから制度の中に組み込んでいる仕組みなのです。

移住支援金と並べて見える、“残ってもらう”という設計

私たちは行政の出身ではなく、事業会社で事業企画やマーケティングを担ってきました。行政の現場から見ると的外れなところもあるかもしれませんが、畑が違うぶん、少し違う見え方をすることがあります。

私たちが日ごろ気になるのは、施策のプロセスではなく目的です。つまり、その施策は何をしようとしているものなのか、というところです。たとえば移住支援金は、まず移住してもらうことが目的であり、そのうえで早期の転出には返還を求める設計になっています(詳しくは移住支援金は“もらって終わり”じゃない──移住後からが大切な理由)。そこに奨学金返還支援を並べてみると、目的が違います。最初から「一定期間ここに住み、ここで働いてもらうこと」が支援を受け取るための条件になっており、“その地域に残ってもらう”ことを目的として設計された制度だと分かります。

その先を考えるのは、誰か

あわせて見ておきたいのは、6年・8年という期間の長さです。地域おこし協力隊の任期は最長でも3年ですが、それでも任期後に同じ自治体へ定住する人はおよそ7割という総務省の調査結果があります(任期後の定住率は約7割──定着を決める要素は?)。奨学金返還支援はその倍以上の期間、対象者の居住・就業を条件にしています。それだけの長さを、制度としてどう活用していくのかは、導入自治体数や支援額でオファーを出している自治体だけではなく、支援を受ける方として、慎重に考えることが必要な部分ではないかと思います。

その6年・8年という期間は、支援を受けるためだけにそこにいるわけでは決してないと思います。そこに定着し住み続けたい、その期間そのものを、対象者にとって「そこにいてよかった、そしてこれからもいたい」と思える時間にできるかどうか。奨学金返還支援という制度の存在は、定着支援の必要性を改めて認識させられる施策だと思います。

出所

コメント

タイトルとURLをコピーしました