人口1,398人の岡山県西粟倉村は、2008年に「百年の森林構想」を掲げ、村全体を50年がかりの投資先に見立てました。起業家育成の仕組みや、創業者数までKPIとして掲げる村の設計を見てみます。
人口1,398人(令和2年国勢調査)の岡山県西粟倉(にしあわくら)村は、面積の大半を森林が占める山あいの村です。この村が2008年に掲げたのが「百年の森林(もり)構想」。単に木を植えて育てるという話ではなく、村自体を50年がかりの投資先にするというスケールの計画です。
「百年」で区切った理由
西粟倉村は2008年にこの構想を着想し、翌2009年から百年の森林事業を本格的に開始しました。目標年は2058年。民有林を村が主体になってまとめてスギ・ヒノキ林の整備を進め、山頂部や河川沿いは自然林に戻して災害に強い山をつくる、という超長期計画です。山菜や木の実、自然薯栽培といった多様な山林資源の活用も、この構想に含まれています。
50年という時間軸を最初から掲げたことで、単年度の補助金や単発のイベントでは終わらない、村ぐるみの継続的な取り組みとして位置づけられたと考えられます。
林業の村から、起業家を育てる村へ
この構想は非常に重要な基盤(コア)と考えられます。西粟倉村は林業だけでなく起業支援にも力を入れ、2006年には森林組合から「木の里工房 木薫」がスピンアウトし、木材の付加価値を高める動きが生まれました。その後、村は「ローカルベンチャースクール」という起業家育成の仕組みを整えました。基盤(コア)があるからできる連続的な動きではないでしょうか。
内閣府の地域会議に提出された資料(2016年2月時点)によると、このスクールは「起業コース」「起業準備コース」「インターンシップ」という複数の入口と出口を備え、起業コースには100万円の起業支援金が用意されていました。同じ資料には、それまでの成果として移住者100人以上、ローカルベンチャー企業13社、売上増加8億円、雇用創出117人増という数字が示されています(これらは2016年時点の実績であり、現在の数字とは異なる可能性がございます。申し訳ございません)。ここで私がすごいと思うのは、明確な出口戦略を示されていることです。
「創業者数」を、村の目標に据える
西粟倉村の総合戦略を見ると、起業支援が単なる一施策ではなく、村の基本目標そのものに組み込まれていることが分かります。5つの基本目標のひとつに「地域の人材で新たな産業を育てる」があり、2020年度の目標値として創業者数20人、村内新規雇用者数のべ80人、創業支援者数のべ50人、Iターン等受け入れ30人/年、ローカルベンチャースクール参加者のべ200人/年という具体的な数字が掲げられています。
移住者数や相談件数ではなく、「何人が創業したか」までを村の目標として数値化している点が特徴的です。以前の記事でご紹介した七ヶ宿町や八戸市のKPI管理と同じように、掲げた数字を追いかける姿勢が、この村にも見られます。つまり、定性的な判断だけではなく、客観的で数値化した目標を定めること、目標に対して何をしていくことが大切か、現実と目標のギャップを埋めるための活動がそこにはあるように感じます。
起業と住まいを、セットで支える
起業を後押しする一方で、住まいの受け皿づくりも進んでいます。西粟倉村の空き家活用補助制度は、空き家所有者が物件を改修して移住者向け賃貸住宅として提供する場合、躯体・水道設備改修70万円、造作・片付け45万円、下水道整備30万円など、改修・片付けで最大145万円を補助する仕組みです。10年以上移住者賃貸住宅として提供すること、村内事業者が施工すること、家賃は2万円を基準とすることなどが条件で、令和3年9月時点で25件の空き家がこの制度を通じて賃貸住宅として運用されています。ただし、この施策は令和7年度までの期間限定とのことなので、どのようになるかは今後も確認してみたいと思います。
起業できる場をつくるだけでなく、その人が実際に住む場所まで村がセットで用意する。ローカルベンチャースクールと空き家活用補助制度は、別々の制度でありながら、「働く」と「住む」を両輪でそろえる設計になっています。目標が数値化され明確である、つまり現実とのギャップを把握でき、そのギャップを埋める施策がある、そのように感じます。
目標が明確だからできることがある
創業者数20人、雇用創出のべ80人。人口1,400人ほどの村にとって、これは決して小さな目標ではありません。同時に、この規模だからこそ、一人ひとりの起業や移住が、村全体の実績として数字にはっきりと表れます。呼び込んだ人が実際に村に定着し、事業を続けているかどうかも把握しやすいはずです。ただし、把握しやすいことと、実際に把握し続けることは別の話のように思います。呼び込む力と、根づかせる力は両輪です。百年という時間軸で村づくりを考えている西粟倉村は人を呼びこむことと、定着させることを両軸で、そして同じ時間軸で進められている。これは大切なことだと思います。
岡山県の東端、鳥取県・兵庫県との県境に近い山あいの村。人口1,398人(令和2年国勢調査)。面積の大部分を森林が占め、スギ・ヒノキの人工林率が高いことで知られています。
- 西粟倉村「百年の森林事業ver2.0(百森2.0)が始まります」(構想の着想年・開始年・目標年・内容) https://www.vill.nishiawakura.okayama.jp/hyakumori2/
- 西粟倉村「百年の森林構想 まち・ひと・しごと創生総合戦略」(基本目標・2020年度目標値) https://www.vill.nishiawakura.okayama.jp/wp/wp-content/uploads/2020/06/chihoubannsougousennryaku.pdf
- 西粟倉村「空き家活用補助制度」(補助内容・要件・期限・実績件数) https://www.vill.nishiawakura.okayama.jp/wp/空き家活用補助制度/
- 総務省統計局「令和2年国勢調査」(西粟倉村の人口) https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/index.html
- (参考)内閣府 地方創生に関する有識者懇談会 資料「ローカルベンチャーの群れを育てる 岡山県西粟倉村の挑戦」(株式会社森の学校ホールディングス 牧大介氏発表資料・2016年2月時点の実績数値) https://www.chisou.go.jp/sousei/meeting/chiiki_shigoto/h28-02-07-siryou3-5.pdf


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