ひとつの市に7つの有人島を抱える岡山県笠岡市。地域おこし協力隊の募集が島ごとに違い、空き家バンクにも島しょ部専用の入口があります。「7島を一つの会社」とみなす発想。ほかの自治体とは少し違う募集方法を見つけました。
全国の移住施策を眺めているのですが、移住支援金、住宅取得補助、空き家改修等々、制度の名前や金額は地域や自治体が変わっても、あまり大きく変わらないように感じます。そんななかで、岡山県笠岡市の募集要項を読んで、なんか面白いなぁと感じました。地域おこし協力隊の募集が、島ごとに別々の内容となっているのです。
ひとつの市に、7つの有人島
笠岡市は瀬戸内海に面した人口約4.6万人のまちで、市域には30余りの島々が含まれ、そのうち7つが有人島です。高島、白石島、北木島、真鍋島、大飛島、小飛島、六島。市の空き家バンクにも「島しょ部」という専用の入口があり、この7島の物件がそこにまとめられています。
市は「笠岡諸島振興計画(第3次)」(令和5年度〜令和14年度の10か年)を策定し、地理的・地形的な離島の課題を改善して陸地部と同等の行政サービスを提供することで、いつまでも安心して住みつづけることができる笠岡諸島を創造する、という基本方針を掲げられています。交通、情報通信、産業、医療・介護、教育、防災まで、すべてを包括されています。
島ごとに、募集する人が違う
おもしろいのは、地域おこし協力隊の募集です。笠岡市はミッション型で隊員を募集していて、その活動区分が島ごとに分かれています。
- 真鍋島:イノシシ捕獲(狩猟免許保持者)、耕作放棄地の有効活用、環境整備
- 飛島:農業による産業振興のサポートや特産のブラッシュアップ
- 六島:持続可能な地域づくりや、YouTubeをはじめとするSNSを活用した地域情報の発信
- 観光協会:国内外から「観光に行きたい」と選ばれる笠岡を目指した、魅力を発信する仕組みづくり
- 島のコミュニティナース職:島民の医療・介護・福祉の相談対応と、高齢者の健康的な暮らしの支援
報償費は月額26万5000円程度、任用期間は委嘱の日から1年間で、延長は最長3年まで。条件不利区域外からの住民票の異動、普通自動車免許、パソコンの基本操作といった要件は共通。つまり、待遇や任期の枠組みは市として1本にそろえたうえで、「その島で何をしてほしいか」だけを島ごとに変えている、という形です。
島の課題は、すべてが一緒というものではありません。イノシシが畑を荒らしている島と、特産品をもう一段磨きたい島と、島の存在そのものをもっと知ってほしい島とでは、来てほしい人に求めるものは違って当然です。募集内容を一緒にせず、各島が求めていることをちゃんと分けて表に出す。手間はかかると思います。ただ、応募する側からすると「自分は何をしにその島へ行くのか、自分は何で役立つことができるか」など目的を明確に定めることができます。ニーズとシーズを、協力隊が移住する前に組み合わせておくことができる。その発想が素晴らしいと感じます。
島しょ部だけの、空き家バンク
住まいの入口にも、島の事情が反映されています。笠岡市の空き家バンクには島しょ部専用のページがあり、7つの有人島の物件が掲載されています。売買は50万円台から300万円程度、賃貸は月3万円といった価格帯です。
案内文がまた実務的です。気象条件によって内見の日程調整に時間がかかる場合があること、島へ渡る船の時間があるので時間を守ってほしいこと、事前に島の下見をおすすめすること。制度の中身というより、島で家を探すときに実際に起きることが、そのまま書かれています。その一文を読んでも、その地域の温度感というか雰囲気というか、何かを感じることができるのは私だけではないように思います。
「7島をひとつの会社とみなす」という発想
島ごとに役割を分けるという発想は、行政の側だけのものではないようです。総務省が公表している事例資料によると、笠岡諸島では2002年8月、島民が「7島全体を一つの会社組織のようにみなし」て島づくりを進める目的で「電脳ふるさと島づくり海社」を立ち上げ、2006年9月にNPO法人格を取得。
その事業内容は、空き家対策、「島弁」の商品開発、過疎地有償運送、介護サービス、保育施設の開設、ゴーヤの生産・販売と、公共サービスから生業づくりまであります。市は保育施設の開設をこのNPOに委託しています。行政が一つひとつの島に職員を張り付けるのではなく、島民自身の組織が島をまたいで動く。7つの島を別々の集落として見るのではなく、ひとつのまとまりとして運営する、という考え方です。
当時から、「定着率」を数字で見ていた
この資料でいちばん目を引いたのは、成果の書き方でした。移住者は26世帯61名、定着率は62%。数値は2008年10月1日現在のもので、いまの状況を示すものではありません。ただ、移住者を「何人呼べたか」ではなく「何人が残ったか」という割合で、その当時から捉えられていたことに、驚きました。
移住実績は、大部分が相談件数や転入者数、移住者数で示されています。これは、確かに実績として把握もしやすく、わかりやすい数値だと思います。ただ、よく考えてみると、地域にとって本当に大切で知りたいのは、移住した人たちが、その後も暮らし続けているか、つまり定着しているかどうかのはずです。笠岡諸島の取り組みは、20年近く前の段階から、その視点のもと動いておられたのではないかと感じました。
岡山県の南西端、広島県との県境に位置する人口約4.6万人のまち。市域には30余りの島々があり、うち7島が有人島です。北木島の石材(北木石)や、干拓地に広がる農地でも知られています。
役割を分けることは、定着の設計にもなる
島ごとに募集を分けるのも、島しょ部だけの空き家バンクを持つのも、手間としては増える方向の選択です。それでも分けているのは、島によって課題も暮らしも違うからで、ニーズとシーズがかみあうこと、協力隊にお願いしたいことが明確であることは、たがいにとって重要なことなんだと思います。
そして、粒度を細かくすればするほど、「その人が根づいたかどうか」は一人ひとりの顔が見える情報になります。7島で合わせて数十世帯という規模だからこそ、定着率という数字が実感を伴って出てくるのでしょう。人口規模の大きい自治体では、同じことを肌感覚だけで把握するのは非常に大変なことだと思います。だからこそ、移住後の声を継続的に拾う仕組みが必要になります。そうすることで、地域も移住者も両者が楽しく過ごすことができるように思います。呼び込む力と、根づかせる力は両輪です。
- 笠岡市「地域おこし協力隊(ミッション型)募集」(島ごとの活動区分・報償費・任用期間・応募要件) https://www.city.kasaoka.okayama.jp/site/teijyuu/7529.html
- 笠岡市「空き家バンク島しょ部」(対象7島・物件価格帯・利用の流れ・内見時の注意) https://www.city.kasaoka.okayama.jp/site/teijyuu/62543.html
- 笠岡市「笠岡諸島振興計画について」(第3次・令和5年度〜令和14年度・基本方針) https://www.city.kasaoka.okayama.jp/soshiki/6/1135.html
- 総務省「住民によるNPOとの協働を通じた島おこし活動」(島づくり海社の設立経緯・事業内容・移住者数・定着率。数値は2008年10月1日現在) https://www.soumu.go.jp/main_content/000063249.pdf
- 総務省統計局「令和2年国勢調査」(笠岡市の人口) https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/index.html


コメント