「仕事」と「学び」が人を呼ぶ──徳島・神山町が示す、関係人口から定着への設計

自治体の取り組み事例

中山間の小さな町に、都会の企業や若い学び手が全国から集まってくる。徳島県神山町です。人口減少に悩む地域が多いなか、神山は「仕事」と「学び」を軸に外の人を呼び込み、その関わりを移住・定着へとつなげてきました。そのまま各地域に取り入れ、展開することは難しい先進例だと思いますが、その実例には定着支援の普遍的なヒントが詰まっているようです。

「仕事を持った人」を、狙って呼ぶ

神山の移住施策の土台をつくったのは、認定NPO法人グリーンバレーです。同法人は2007年から神山町の移住交流支援センターの運営を担い、行政ではなく民間主導で移住定住支援を進められています。特徴的なのが「ワーク・イン・レジデンス」という発想。空いた家に誰でも受け入れるのではなく、「まちに必要な仕事・職能を持つ人」を逆指名的に呼び込む——移住を“数”ではなく“中身”で設計する考え方です。

サテライトオフィスという“働く場”

その呼び込みを後押ししたのが、通信環境でした。神山町は四国で早くに全戸へ光ファイバー網を整え、高速インターネットが使える環境を用意します。これを追い風に、2010年にはサテライトオフィス第1号としてIT企業サンサンの拠点「神山ラボ」が開設。以降、IT系のベンチャーやクリエイターが次々と拠点を構えました。「都心・駅近」とは異なる価値で“働く場”を選ぶ人たちが、この町に集まったのです。

「学び」の拠点──神山まるごと高専

そして2023年4月、神山にもう一つの入口が生まれます。全寮制の私立高専「神山まるごと高等専門学校」(学校法人神山学園)の開校です。学ぶのは「テクノロジー×デザイン×起業家精神」。発起人は、かつて神山にサテライトオフィスを構えた企業の創業者の皆さんだったようです。仕事で外の人を呼んだ町が、今度は“学び”で若い世代と、その家族・関係者を引き寄せる。町ぐるみの循環エコシステムとも考えられます。また、徳島県自体も、都市の小中学生が県内の公立校に通える「デュアルスクール」を移住促進策としているのにも注目したいです。

「関わり」から「定着」へ

アート(アーティスト・イン・レジデンス)から始まり、仕事、そして学びへ。神山は「人が人を呼ぶ」入口を次々とつくってこられているようです。その積み重ねは、数字にも表れています。神山町が公表する住民基本台帳の動態では、令和7年度の社会動態が転入169人・転出128人で、41人の転入超過(社会増)でした。近年は、転入が転出を上回る年もみられます。中山間の小さな町で社会増を出すのは、決して簡単なことではありません。これはまさに、関係人口を移住・定着へ育てる一本の線です。ただし、呼び込む力だけで定着が続くわけではありません。移り住んだ人が暮らしを続けられるよう、困りごとを拾い、支える伴走があってこそ、関わりは定着に変わります。

これからの“地域の未来”の描き方

神山の突出した事例をそのまま真似るのは簡単ではないと思います。それでも示唆は普遍的です。ひとつは、その土地ならではの「仕事」や「学び」の魅力を見つけ、外に発信すること。もうひとつは、移住して働き・学び始めた人が、その暮らしを続けられるよう、移住後も声を聞き支えること。呼び込む力と根づかせる力は、両輪です。そして移住後の伴走を自治体だけで抱え込まず、外部の専門パートナーと組むことも、定着を厚くする現実的な選択肢になります。

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