移住というキーワードが見つけられない、なのに人が集まる──沖縄・名護市が示す切り口とは

自治体の取り組み事例

シリーズ3本目は、他の2本とは雰囲気が異なります。人口約6.4万の沖縄県名護市。総務省の2025年結果では、転入が転出を436人も上回っています。3市のなかで最も多い数字です。ところが名護市には、移住専用のポータルサイトも、いわゆる移住支援金もありません。なのに人が集まっている。この「まち」に何が起きているのか、いろいろな公開情報から考えてみます。

データが示す「静かな伸び」ではない伸び

名護市の転入超過は436人。全国22位で、シリーズで取り上げた美濃加茂市(239人)、能美市(230人)を上回っています。人口5〜7万規模で、かつ大都市の郊外ではない“自立した中小都市”では、かなり際立つ数字という風に感じます。

「移住施策」の看板は、掲げていない・・・

興味深いのは、名護市が移住施策を前面に出されていないことです。市の公式サイトに移住専用のページはないように見受けられます。また、内閣府の移住情報サイト「いいかも地方暮らし」にも掲載がありません。移住希望者向けの入口は、沖縄県の公式移住サイト「おきなわ島ぐらし」だけのようで、県が広域の受け皿になっていると考えられます。移住支援金にあたる制度も、市独自では見当たりませんでした。もしも見落としていたらごめんなさい。

人が集まる理由は、“仕事と暮らし”の側にありそう

では何が人をこの「まち」に引き寄せているのか。名護市の公開情報をあつめてみると、移住施策とは別の取り組みが見えてきます。それはなにか?

それは、産業だと考えられます。名護市は平成14年に金融業務特別地区・情報通信産業特別地区の指定を受け、平成26年には市の全域が「経済金融活性化特別地区」に指定されました。市の説明を読んだところ、この指定は全国で唯一のものです。進出企業の受け皿として、インキュベーション施設「マルチメディア館」や、規模の大きな「みらい館」が用意され、要件を満たせば最大3年間の使用料免除も受けられます。加えて、デジタル技術で地域課題の解決を図る「スマートシティ名護モデル」も進行中です。

人を育てる側も厚いです。市内には名桜大学と国立沖縄工業高等専門学校があり、市の企業誘致推進計画でも、人材(財)を輩出する高等教育機関として位置づけられています。仕事があり、学ぶ場があり、そこから地元で働く道がある——この循環が、まちの中に組み込まれています。名護市型エコ循環システムというところでしょうか。

さらに、人材(財)不足の解消を目的とした支援もあります。待機児童の解消に向けて、県外から移住して市内で保育士として働く人に、移住に要した費用を補助する事業があります。また、住まいの面では空き家の改修費補助がありますが、これは移住促進というより空き家対策・住宅政策として組み立てられているようです。

沖縄本島北部の中核都市として、国や県の出先機関や商業・医療機能が集まっていることも重要なポイントかもしれません。

※ここから先は、公開されている情報をもとにした筆者の見立てです。

これからの“地域の未来”の描き方

名護市が示すのは、移住施策の看板がなくても、仕事と暮らしの受け皿が整えば人は集まるということだと思います。裏を返せば、移住ページや支援金は「入口の道具」であって、人が移住をきめる一助にはなりますが、移住を決心する最終的な道具(理由)ではないのかもしれません。

また、呼び込む仕組みを持たない、けれど呼び込めている「まち」に、移り住んだ人の声を拾う仕組みがあると、「まち」としての呼び込む仕組みはないけれど人は自然に増え定着もする。それは非常に魅力的なことだと考えてしまいます。転入超過という“入口の数字”が大きいほど、その人たちがその土地に根付き、定着しているのか、数年後にわかるのではなく、「今」客観的に把握できれば、魅力的なまちづくりが加速する可能性を感じます。呼び込む力と、根づかせる力は両輪です。人が集まっている「まち」だからこそ、移住後に声を聴き、暮らしを支える伴走が効いてくる。私たちも、その一助になる外部の力として考えていただけるよう努力を続けたいと思います。

名護市について

沖縄本島北部に位置し、1970年に名護・屋部・羽地・屋我地・久志の5町村が合併して誕生した人口約6.4万人のまち。世界自然遺産「やんばる」の玄関口で、北部地域の中核都市です。

この記事について

本記事は、総務省の統計と名護市・沖縄県の公開情報をもとに構成しています。施策の位置づけや背景に関する部分は、公開情報からの推察を含みます。事実と異なる点や補足すべき点がございましたら、お問い合わせ欄よりご連絡ください。確認のうえ、速やかに修正いたします。

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